イベント情報

『ジャパン・アーキテクツ1945−2010』展レポート

2014年11月1日から2015年3月15日まで、金沢21世紀美術館(金沢市)で、「ジャパン・アーキテクツ1945− 2010」展が開催された。同時に始まった「3.11以後の建築」展(2015年5月10日まで開催)も合わせて、それぞ れ第一部と第二部として全館をあげた大規模な建築展となっていた。

「ジャパン・アーキテクツ1945−2010」展は、ポンピドゥー・センター(パリ)との共同企画展で、日本の戦後建築を振り返る内容となっていた。ポンピドゥー・センター(パリ国立近代美術館)副館長のフレデリック・ミゲルー氏が長年実現に向けて力を注いでいたと聞いている(企画当初は1945−2005であったが、開催の延期とともに5年が追加された)が、言語が違う国の建築についてこれだけのおおがかりな展覧会を企画するのは並大抵の熱意ではないだろう。

会場エントランス風景。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

展示構成は、「第1セクション:黒絶えざる破壊と再生、陰翳あるいは闇」から始まり、「第2セクション:ダーク・グレー都市と国土のヴィジョン」、「第3セクション:ライト・グレー新しい日本建築」、「第4セクション:カラーメタボリズム、万博、新たなヴィジョン」、「第5セクション:ノン・カラー消滅の建築」、「第6セクション:白還元から物語へ」と、区切られていた。戦後すぐの「黒」からブルータリズム、工業化時代を経て、「色」がある万博に象徴される時代、「色がない」消滅の時代を経て、「白」をモチーフとして、65 年間の日本建築の動向をまとめようという野心的なキュレーションである。

「第1セクション:黒絶えざる破壊と再生、陰翳あるいは闇」にある一木努が収集してきた日本各地の建築物の断片をもとに、鈴木了二が制作したインスタレーション。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

前川國男、坂倉準三、白井晟一、アントニン・レーモンドなどのモダニズムの巨匠たちによる手書きの図面やスケッチが並ぶ「第2セクション:ダーク・グレー都市と国土のヴィジョン」展示風景。スライドで映し出されているのは、村野藤吾による広島世界平和記念聖堂。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

これだけの期間を包括的にまとめあげる展覧会は記憶にない。それをフランス人であるミゲルー氏が日本で開催したということについては、手放しで喜んでいてはいけないと思う。日本ではこれほどの建築家が生まれ、都市を作って来た。そのことについて多くの人が無自覚、または無関心であるということをつきつけられたような気がした。展覧会を企画するにあたり、この65年をどう区切るか、どの建築家をどう位置づけるか、という視点は、見ている立場が違うと違ってくる。そして、境界というのは、後で振り返って引かれるものなのだとすれば、今という時代をどう残して行くかということに意識的になっても良いように思う。

日本人の気質として、人と比べたりしなくても、自分が良いと信じているものができればそれでいいという奥ゆかしい精神があると思うが、人に伝えなくては残っていかない。建築は人々の記憶に残るか、保存によって残るかしかない。近年、日本で近代の名作が次々に取り壊されて行くことについても、無関心のつけが来ているような気がしている。やみくもに保存するのが良いという訳ではなく、保存すべきか否かという議論ができるような状況になっていないというのが問題ではないだろうか。

中央下に見えるのは、1960年東京で開催された「世界デザイン会議」でのメタボリズム宣言が収められた冊子『メタボリズム1960』(当時500部限定)。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

ドローイングからは当時の熱意や建築家の意図がはっきりと読み取れる。建築を設計しながら、夢見ていた完成図を共有するかのような興奮も覚える。果たしてこれからの建築資料はどうやって残って行くのか。本展覧会には建築雑誌などの貴重な資料も展示されているが、やはり紙媒体が残るのだろうか。コンピュータを使った設計図には手書きのドローイングのような情緒はないのだろうか。木と比べて耐久性があまりないスチレンボード製の模型は後世には伝わらないのだろうか。コンピュータの発展とともに古いデータにはアクセスできなくなってしまう恐れもあり、データを動かせるソフトウェアとそれを駆動できるハードウェアの保存も必要であるだろう。1977年の「パソコン元年」から40年近く、コンピュータデータの保存についても考える必要がありそうだ。

「第4セクション:カラーメタボリズム、万博、新たなヴィジョン」にある丹下健三、西山夘三による日本万国博覧会会場・基幹施設マスタープラン模型と伊坂芳太良による会場鳥瞰図。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

「第6セクション:白還元から物語へ」展示風景。映像が多く、建築のプレゼンテーションの手法が変化してきたことがわかる。
撮影:木奥惠三
提供:金沢21世紀美術館

2015年2月21日(土) には、シンポジウム「ヒストリー・オブ・ジャパン・アーキテクツ」(パネラー:青井哲人(明治大学建築学科准教授)、中谷礼仁(早稲田大学建築学科教授)、長谷川堯(武蔵野美術大学名誉教授)モデレーター:日埜直彦(建築家・本展展示構成)が金沢21世紀美術館レクチャーホールで開催され、あいにく参加できなかったが、磯崎新氏、評論家の浅田彰氏が客席から参加し、4時間を越える白熱した討論になったという。歴史から学ぶことは多く、技術の進歩はあれど、人間の行為であるには変わりないと思う。近視的な視野ではなく綿々と受け継がれてきた歴史を知ることが現在の建築を理解することにつながるという意識が多くの人に共有されることを願っている。

ジャパン・アーキテクツ 1945-2010: 2014年11月1日(土) → 2015年3月15日(日)
3.11以後の建築: 2014年11月1日(土) → 2015年5月10日(日)
開場時間/10時〜18時 (金・土曜日は20時まで) チケットの販売は閉場30分前まで
休場日/毎週月曜日(ただし、11月3日、11月24日、1月12日は開場)、11月4日、11月25日、12月29日〜2015年1月1日、1月13日、5月7日

柴田直美 しばた なおみ
編集者。
1975年名古屋市生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、1999〜2006年、建築雑誌「エーアンドユー」編集部。2006〜2007年、オランダにてグラフィックデデザイン事務所thonik勤務(文化庁新進芸術家海外研修制度)。以降、編集デザイン・キュレーションを中心に国内外で活動。2010年より、東北大学と仙台市が行うプログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン」広報担当。国際芸術祭『あいちトリエンナーレ2013』アシスタントキュレーター。
2015年 パリ国際芸術会館(Cite internationale des arts)にて滞在研究予定。 http://www.naomishibata.com/